『のりものマメ知識』 文化財駅舎と特殊なスイッチバック-長野電鉄湯田中駅

善光寺のある長野市や「蔵の町」として有名な信州須坂など、長野県北部には歴史的な観光地が存在します。今回は長野県北部を走る長野電鉄のお話です。
 
長野電鉄は長野県を走る鉄道路線です。長野駅から湯田中(ゆだなか)駅を結ぶ長野線(通称・本線)と、屋代(やしろ)駅から須坂(すざか)駅を結ぶ屋代線の2路線を保有しています。


 ▲長野電鉄の路線。2路線あります。


長野線の終点、湯田中駅が開業したのは1927年。そのとき建設された駅舎が建て替えられず、2005年に国の登録有形文化財に指定されました。しかし2006年に同駅は構内の配線変更を実施し、現在は温泉施設として活用され、第二の人生を歩んでいます。
 
さて、2006年の配置変更工事まで、湯田中駅にはちょっと珍しい鉄道施設が存在していました。それはスイッチバックです。
 
え?スイッチバックって別に珍しいものではないような…
 
とお考えの方も多いと思います。
スイッチバックとは、大まかに分けると
 
1. 勾配(坂道)が急なために直線では登れないため、ジグザグに折り返しながら進むもの
  例) 神奈川県の箱根を走る箱根登山鉄道など
2. 勾配の途中に駅があり、勾配上に停車すると前進できなくなるため駅を平らな部分に建設し駅に出入りするために行うもの
  例) JR篠ノ井(しののい)線の姨捨(おばすて)駅など
3. 折り返し逆方面へ向きを変えて進むためのもの
  例) 小田急線藤沢駅など
 
の3種類があります。
 
しかし湯田中駅は終点駅であり、駅自体は平らな場所にあるため、上記1.~3.のいずれにも該当しません。
 
このスイッチバック付近には踏切が存在したのですが、列車の到着や発車をその踏切から見ていると、何とも不思議な光景が見られたのです。どんな光景かと言いますと…
 
まず電車が踏切にさしかかります。そのまま踏切を通過するのかと思えば途中で突然停車してしまいました。しばらくすると今度はなんと来た方向に戻って行ってしまいました。
 
…この電車は踏切を通過せず、何をしたかったのでしょうか?
答えはこの駅の線路の構造にあります。湯田中駅はホームがカーブの途中にありますが、ホームは直線になっています。2両編成の電車のときは問題ないのですが、3両編成の電車の場合、少し困ったことが起こります。そのまま駅に入線すると、長野駅寄りの1両がカーブのためホームにかかりません。このままでは乗客は降りることができず、ホームから乗ることもできません。


 ▲ 湯田中駅の旧配線図概要。これじゃあ乗客は困ってしまいます。  
※実際はもう1つホームがありましたが、今回は概要図で説明いたします。


そこで一度少しだけ前進し、ポイントを切り替えた後今度は後退して直線部分に電車を押し込むという方法をとります。このときに踏切から見ていると前述のように電車が来て、止まって、戻っていく不思議な光景がみられるのです。そして電車が発車するときは、これとは逆の手順で後退→停止→ポイント切り替え→前進し、長野駅方面へ向かいます。


 ▲ 上図の1~4の順序で停車します。


湯田中駅にはこのように一般的なものとは大きく異なるスイッチバックが存在していました。「ちょっと進んでちょっと戻る」というところから、一部のレールファンの間では「ミニスイッチバック」という愛称も付けられていたほど親しまれていました。
 
…と、ここで疑問になるのは、「ミニスイッチバックができた理由」です。その答えは湯田中駅の周囲の状況を見るとわかります。まず、同駅は前述のようにホームすぐ近くに踏切があります。そして駅の直前は急勾配となっています。ホーム延長の際、スイッチバックの形態2.で説明したように、勾配の途中にホームを設置することはできません。しかも反対側には踏切があり、完全に挟み撃ちの状態になってしまいました。そこで図のようにポイントを設置し、平らな部分に延長することでホームの問題を解決し、同時にミニスイッチバックが発生したのです。
 
余談ですが、同じような例として2010年3月29日のりものマメ知識黒部峡谷をゆく小さな力持ち」でご紹介した、「黒部峡谷鉄道」の鐘釣(かねつり)駅も、ホームに入るためにミニスイッチバックを行います。こちらは現在でもミニスイッチバックを堪能(?)することができますが、黒部の厳しい冬に備え冬季は運休となります。
 
2006年に湯田中駅の配線が変更され、湯田中駅のミニスイッチバックはすでに存在しません。独特な光景は過去の物になってしまいましたが、その記憶は駅舎とともに忘れられず残ることでしょう。


次回は京都へ。日本の古都を走る路面電車をお送りします。お楽しみに!

トラックバック
このエントリーのトラックバックURL:
http://ekispablog.jp/cmt/mt-tb.cgi/2808