『のりものマメ知識』 飯田線の主-119系

飯田線は愛知県豊橋市の豊橋駅と長野県辰野町(たつのまち)の辰野駅を結ぶ路線です。もともとこの地は「豊川鉄道」、「鳳来寺鉄道」、「三信鉄道」、「伊那電気鉄道」の4社の私鉄路線が敷設されており、当時より電化路線として電車が運行されていました。同線に沿って流れる天竜川の電力開発に伴い建設された鉄道であり、開発の見返りとして電化路線が開業しました。そのため、いち早く電車が走る路線となったのです。1943年に4つの私鉄が戦時下の国策により当時の国鉄に買収され、「飯田線」となりました。元・私鉄であったため駅数が非常に多く、全長約196kmの路線に94もの駅があります。1駅間の平均は約2.1kmであり、大都市圏の通勤電車区間とほぼ同じです。なお、2010年6月現在のダイヤでは、このとてつもなく長い区間を一度も乗り換えすることなく直通で運行される列車もあり、所要時間はなんと約6時間にも及びます。お時間に余裕のある方はゆっくり長旅を満喫するのもよいかもしれません。


さて、そんな飯田線は比較的最近の1983年まで雑多な旧型国電(きゅうがたこくでん)や80系電車といった、レールファンの間では人気者と言える電車が活躍する場所でした。これらは戦前に製造された車両もあり、当然ながら老朽化は隠せないものでした。これら電車を置き換えるべく当時の国鉄が1982年より製造した電車が写真の119系電車です。同時期に誕生した105系電車とほぼ同じ外観ですが、飯田線用に特化した特殊仕様となっています。飯田線は急勾配が多いため「抑速ブレーキ」を搭載したり、高さの低いトンネルを通過できるよう特殊仕様のパンタグラフを搭載したりするなどの改良がなされています。また、飯田線は駅間距離が比較的短いこと、山間部を走るためカーブが非常に多いことなどから、高速性能より加速性能を重視した仕様となっています。

今回の主役119系、生まれた当時の色は天竜川の水をイメージした水色に薄い灰色のラインというデザイン。ラインはカラーテープで描かれました。この手法は当時の鉄道車両では珍しいものでした。2両編成と3両編成の合計57両製造され、前述の旧型国電を置き換えていきました。こうして「飯田線の主」となった119系は爽やかなカラーリングをまといながら、天竜川の美しい渓谷沿いを走り続けました。

「飯田線の主」として定着した119系ですが、1986年11月のダイヤ改正でちょっとした転機が訪れます。それは「するがシャトル」へのデビューです。当時東海道本線の静岡地区では普通電車の増発を行っていました。その普通列車に付けられた愛称が「するがシャトル」です。同ダイヤ改正でさらなる「するがシャトル」増発を行うため、飯田線の一部の119系にお呼びがかかったのです。
「するがシャトル」として活躍するにあたり、まず車体の色が大きく変更されました。白地に赤のラインでアルファベットの「S」をイメージした塗装に変更され、今までのイメージを一新するものでした。また、新たに冷房装置も設置され先輩の113系などと共に東海道本線で活躍を続けて…

…いけなかったのです。(涙)
実は119系、いざ「するがシャトル」として走らせてみると、すぐにある問題点が浮き彫りとなりました。

それは「高速性能の低さ」です。前述のように119系は飯田線の特徴に合わせた設計がなされており、平地を高速で走ることには適しません。しかし東海道本線は駅間が長く、高速で走ることが要求されました。性能と真逆のことを追求され、他形式電車と同様のダイヤとすることが困難となってしまったのです。駅での停車時間をぎりぎりまで削るなどの苦肉の策を講じましたが、結局改善には至らず運用から離脱。119系はわずか2年で「するがシャトル」の任を解かれ、元の飯田線に戻ってしまうのでした。

飯田線に舞い戻った119系は、残っていた119系と共に編成の組み替えが行われ、1988年より前後両方に運転台をつけた単行と、片運転台の2両編成になりました。また冷房装置の取り付けが全車に行われるなど、各種改造も行われました。1987年に国鉄が民営化されJR東海となると、全車の車体色を変更し、上の写真のような白地に緑とオレンジのカラーリングとなり再び「飯田線の主」として、毎日渓谷沿いの険しい線路を走っていました。

そして2009年、119系にサプライズが訪れます。飯田線の中部天竜駅構内にあった鉄道テーマパーク「佐久間レールパーク」が同年の11月1日をもって閉園するにあたり、イベントとして119系の1編成がデビュー当時の水色と薄い灰色の帯を巻いたカラーリングに戻されたのです。



▲ 復刻塗装の119系
※ヴァル研究所社員撮影


飯田線を初めて走行した当時を彷彿とさせる姿は、レールファンのみならず、きっと119系にとっても喜ばしいことなのではないでしょうか? …と筆者は思うのでした。



前々回の7月7日「のりものマメ知識」からJRの車両が続いておりますが、次回は第3セクターの鉄道をご紹介します。

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