
昭和後期には古い交通システムと言われた路面電車が、昨今スタイリッシュに変身して注目されているのをご存じでしょうか。これらの車両は、こぞって“LRV”と称しています。LRVとは Light Rail Vehicle の略で、軽量鉄道車両とでも訳せばよいのでしょうか。一時期、軽快電車という言葉が編み出されましたが、JRの“E電”と同じく定着せずに死語となってしまいました。結局、適当な訳語がないので、最近では“LRV”と記したうえで“次世代路面電車”というような注釈がつくようです。
このLRVに共通しているのは、スタイリッシュな外見とともに床の高さがとても低い“超低床車”であることです。これは、バリアフリーが叫ばれる昨今、とても望ましい仕様ですね。これにより、高齢者や障害者の方々は、乗降がとても便利になりました。また、ステップが無くなることで乗降時間が短縮するメリットも生み出しています。
ところが、路面電車の超低床化には大きな問題点がありました。それが、「台車」の存在です。バスを思い出してみてください。バスには前後に計4箇所のタイヤがありますが、そのタイヤハウスの直上にあたる部分の椅子は足元がせり上がっていて、着席しにくいですよね。ただし、バスの場合は左右のタイヤを車軸が結んでいるだけのため、車両中央部の床高さは低くできます。一方、路面電車の多くはボギー車といって、前後に2対の車軸をもつ「台車」を履いています。このおかげで、鉄輪が鉄路の上を走るにもかかわらず乗り心地が良くなっているのですが、台車にはモーターを仕組んであるなどの理由で低くしにくいのです。これがネックとなって、超低床車の開発には時間がかかりました。それでも、技術の進歩と様々な対応策の試行錯誤によって、次第に超低床車が普及してきました。
この時代の流れになかなか乗ることができなかったのが、JR在来線と同じ1067mmのレール間隔(軌間)をもつ路面電車でした。床下面積が狭いために制限が多いのです。それでも、輸入技術で近年では実用化されるようになってきました。この流れに乗って、国産でもようやく昨年末の平成20年12月19日に1067mm軌間用の全面超低床路面電車が登場しました。大阪のアルナ車両製で、愛知県の豊橋鉄道が市内線用に導入したT1000形です。豊橋がある東三河地区を「穂の国」と呼ぶこと、それに路面電車のことを英語でトラム(Tram)ということから、これらを組み合わせて「ほっトラム」という愛称がつけられています。
3車体2台車方式の車両ですから、中間車には台車がありません。そのおかげで、中間車の乗降部の高さはレール面から35cmと極めて低くなり、電停高さとさほど変わりません。車椅子での乗降ができるように、両開きの幅広扉になっています。白色基調の車体は、豊橋市内を走っていても目立ちます。車内は明るく、ロングシートとクロスシートが配置された斬新なデザインで、従来のロングシートが長く伸びていた車両とは一線を画しています。営業開始から間もない今は、誇らしげに「祝」のヘッドマークを掲げて走っています。
東海道新幹線の停まる豊橋駅の駅前から乗車できる便利な豊橋鉄道市内線は、途中で天下の国道1号線も走る路面電車です。まだ1両だけしかない車両ですが、近くに用があった際には、少しだけでも乗車体験してみてはいかがでしょうか。